お金持ちがなぜ株式に投資するのかは、実質トータルリターン指数のチャートを見ればわかります。
数ある資産クラスの中で、長期的なパフォーマンスで圧倒するのが株式です。
実質トータルリターン指数
1802年時点の1ドルを各資産に置き換えて保有し続けた場合の実質的な価値
出典: American Association of Individual Investors Journal, August 2014
この過去200年のデータをまとめたチャートは、「株式投資」「株式投資の未来」の著者であり、シーゲル流投資術でも有名なジェレミー・シーゲル教授による最大の功績の一つです。
米国株式の美しい上昇トレンドが特に印象的ですが、だからといって株式に投資しようという早合点は失敗の元です。
この記事では、実質トータルリターン指数から本当に読み取るべき事実と、このチャートを鵜呑みにして株式投資をすべきでない注意点について解説します。
- お金持ちになる方法を知りたい。
- どうして株を持っているとお金持ちになれるのか知りたい。
株式の実質トータルリターンとは
実質トータルリターン指数とは、株式や債券などの各資産クラスを配当再投資する条件で、インフレ率を考慮した長期的資産価値のトレンドを示した指数です。
実質的な購買力を示します。
株式とは
ここでいう株式とは、米国の株式市場全体のことを表します。
注意点として、日本など、米国以外の株式は含まれていないということです。
また、個別株のことでもありません。
株式市場全体の時価総額に1ドル分だけ投資したという想定で指数化しています。
今日とは違って、1801年の時点では市場全体に少額で投資できる投資信託やETFは存在しなかったため、この投資は実質不可能であり、あくまで理論上の数字です。
また、後述しますが、他の国の株式市場では同様の右肩上がりのトレンドは見られません。
因みに現代では、米国や世界全体の株式市場に投資することができるようになりました。詳しくはこちらの記事で解説しています。
実質とは
実質とは、名目を物価指数で割ったものです。当時でパンがいくつ買えるかといった購買力を示します。
この200年の期間には、物価変動があります。
この実質トータルリターンのチャートは、名目トータルリターンのチャートを、消費者物価指数(CPI)の値で調整された後の数字です。
特に金本位制から管理通貨制度に切り替えが徐々に起こったこともあり、戦後のインフレは加速しています。
トータルリターンとは
トータルリターンとは、値上がり益+配当金のことです。キャピタルゲイン+インカムゲインという言い方もできます。
株式と債券の場合、得られたは配当(利子)収入は、全て株式・債券の買い増しのための再投資に使われる想定です。
こうすると福利効果を生み、トータルリターンを最大化します。
現実にはもちろん全額を長期に渡り再投資することは不可能です。死ぬまで再投資し続けたら、何のためにお金を増やしたのかわかりませんからね。
現金や金(Gold)にはインカムゲインは発生しません。
膨大なデータ分析からのメッセージ
長期的に信頼できるのは、債券よりも株式
実質トータルリターンのチャートは、私たちの感覚を覆します。
- 株式はリスク、現金はなんだかんだ安心
- 債券は安全、リターンは小さい
私たちは単純に株はリスク、現金がいざとなったときでも一番安心と考えます。
ところが、長期的には株式は最も安定してリターンをたたき出しており、現金は1人負けでその価値を減らし続けています。
国債(短期・長期ともに)のリターンすら40⁻50年スパンで見ると、マイナスのリターンとなる時期も存在します。
私たちは、日々の生活があるわけですから、ゆっくりとすすむ物価上昇を加味した実質的な価値のトレンドにはなかなか気づくことができません。
最も重い税はインフレ
インフレとは物価が上がることであり、同時にお金の価値が減ることでもあります。
200年チャートでは現金の1人負けでした。
日本を含む先進国すべてが、年間1~2%程度のインフレを目指していますので、去年稼いだ500万円と同額を今年稼いでいたら、その価値は実質490~495万円程度になっているということです。
年間5~10万円の見えない税で、年々その額は大きくなります。
貯金のような現金資産も、実質的な価値が目減りしていくにもかかわらず、私たちは気づくことができません。
詳しくはこちらの記事を参照ください。
経済危機は誤差の範囲
私たちは、株式に投資していると、リーマンショックのような経済危機を恐れます。
100年に一度と言われる2008年のリーマンショックや1929年の世界恐慌は、その時代に生きた者としては大変な出来事でした。
しかし、200年チャートでは○○ショックと呼ばれる経済危機ですら、ノイズでしかありません。
この200年の間には第二次世界大戦など、もっとすさまじい出来事がありました。
金本位制度の崩壊、インターネットのようなIT革命が起きても、戦争が起きても、このトレンドは続いています。
2020年のコロナショックなど、長期投資家には取るに足らないことがわかります。
大地震が起きても、サイバー攻撃で金融システムが破綻しても、核戦争が始まっても、株式市場を信じ続けられる根拠になります。
シーゲル教授の注意喚起
実質トータルリターン指数のチャートは長期で株式市場にい続けるための心の拠り所となりますが、読み間違えないよう注意する点もあります。
株式チャートが美しく見えるカラクリ
株式のトレンドだけがきれいな右肩上がりを示していますが、これにはいくつかカラクリがあります。
米国の株式市場全体に限ったトレンド
まず、この株式は米国の株式市場全体に限ったトレンドで、日本や他の国には当てはまりません。
「株式投資」では日本、英国、ドイツの株式市場トレンドも似たような傾向を示しますが、きれいな右肩上がりではありません。
ドイツは戦後ハイパーインフレにより株式の価値が棄損され、日本市場は成長が鈍化する傾向が見られます。
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出典:株式投資 ジェレミー・シーゲル著
株式投資の手法は再現できない
200年チャートは理論上の傾向を示すためのチャートであって、以下の理由により株式投資で同様のリターンを得ることはできません。
1つは、配当を全額必ず再投資していることです。これをやるには米国の市場全体を買う投資信託やETFを買い付け、数世代にわたり資産収入はゼロというやり方を貫徹しなければなりません。ETFの場合は、手動で再投資し続ける必要があります。このため配当金目的の投資スタイルには合いません。
2つ目は、ドルコスト平均法による積立投資や追加投資をすれば、パフォーマンスは明らかに下がるということです。これは、平均購入単価が上がってしまうためです。
3つ目に、運用コストが加味されてない点です。市場全体を少額で買うことは可能になりましたが、実際はETFや投資信託の経費率や税金がかかってくるため、理論上と比べて実際のパフォーマンスは激減します。
株式の資産が一番リターンが高い理由は、実はわかっていない。
200年という期間は、データの信頼性を非常に高めてくれていますが、あくまで過去のトレンドがそれを示しているだけです。
作成者のシーゲル氏自身も、これを証明する材料がないと原本でも主張しており、以下の文言を強調するのに枚挙にいとまがありません。
- Past performance is not indicative of future results.
株式の短期的なトレンドはランダムウォーク(過去のトレンドは未来に関係ない)することが定説となっています。
米国株式の200年トレンドがたまたま対数軸で直線を描いているように見えており、これからも続くことを証明する材料はまだないようです。
税金を考慮すると、パフォーマンスは激減する。
投資家の目標は、税引き後の実質トータルリターンを最大化することですが、この税金を考慮すると、リターンの結果は衝撃的になります。
税率後の実質トータルリターン|課税は75万ドルのリターンを3万ドルにまで押し下げる
出典:「株式投資」 ジェレミー・シーゲル著
米国の税制は日本より複雑で単純比較はできませんが(日本の税制ではキャピタルゲインもインカムゲインも20%だが、米国では資産高によって変わり20%より高い傾向)、税引き前と税引き後のリターンの差は20倍以上にもなります。
米国の場合、値上がり益に対する税、キャピタルゲイン税は20%ですが、配当などのインカムゲイン税は30~40%と日本よりも高いです。
それを加味した上記のグラフですが、株式のリターンは大きく押し下げられ、200年間の近似直線は描けなくなりました。
また、債券についてはほとんどリターンを得られないばかりか、長期的にはマイナスになる(購買力がさがる)ことも示されています。
株式市場に参加する前の注意点
時間をかけないとお金持ちにはなれない。
私たちができる長期投資の期間としてはせいぜい40~50年ほどがほとんどです。仮に20代の人が50年間運用しようとしても、お金持ちになれるのは老後で、それまでの人生ずっと資金を拘束しておくことはあまりにも夢がなさすぎます。
また、株式は数年単位で価値が大きく上昇したり下降したりするため、15年以上保有しないと、価値が戻ってこないこともありえます。(実際、世界恐慌は株価が戻りまでに15年、リーマンショックは3~4年ほどでした。)
私たちの人生は、株式の安定トレンドが示す時間と比べるとはるかに短いので、株式以外のことに夢や情熱を持ったほうが賢明です。
どの潮流にのせるか
問題は、私たちが稼ぐお金をどう保有するかということです。
多くの場合、給料は現金で支給されますが、そのまま貯金しておくとインフレ貧乏まっしぐらになってしまいます。
全額米国株式に代えて保管すると、長期的には上昇傾向と知っていても、価格のアップダウンに気負いするでしょう。
自分にとって合点のいく割合で、株式、現金または債権や不動産などの資産を保有するのが、最適解になります。
アセットアロケーションについては、こちらの記事でまとめています。
株式投資を信じないと、リターンは得られない。
このチャートは長期投資の羅針盤として有効に活用することができます。
株式市場にい続けないと、リターンを得ることができません。
大恐慌で損失回避したい、生活資金が必要になったなどの理由で、株式を売りたくなることは十分にあり得ます。
私たち個人投資家も途中で売ってしまうリスクに常時晒されているので、株式投資の未来を信じられる強靭な精神を育てる必要があります。
まとめ 長期的には株式が最も資産を保全できる
まとめ
本記事をまとめると以下です。
- 超長期的には株式が1番かつ安定して儲かる。
- 現金で資産を保有すると、インフレに無防備な状態となり資産価値を保てない。
- ただし、米国経済のみに反映したことである。
- この上昇トレンドの理由は証明されていない。また、将来のトレンドを示すものではない。
- 世界恐慌、戦争、リーマンショックなどの経済危機ですらノイズに過ぎず、15年以内に必ず株価は戻る。
つまり、お金持ちが株式投資する理由は、時間をかけて資産を守りつつ、増やし続けるためです。
お金持ちは、お金持ちでいるために株式投資をします。
現在は私たち一般の人でも株式投資ができるようになってきました。
老後の資産形成のためではなく、資産を守るという視点でも、株式投資は有効な手段です。
ただし、投資がギャンブルにならないよう、投資手法を工面することが課題です。
本記事の参考文献はこちらです。
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それではまた。